遺言書がないとどうなる?相続で起こり得ることをわかりやすく解説
「家族みんな仲が良いから、遺言書は必要ない」
「遺言書を書くほどの財産もないから大丈夫」
このように思われる方も多いのではないでしょうか。
もちろん、すべての方に遺言書が必要というわけではありません。
また、遺言書がないからといって、必ず相続争いが起こるわけでもありません。
しかし、実際の相続では、遺言書がなかったために、残された家族が思っていた以上に大変な手続きをしなければならなくなることがあります。
今回は、遺言書がない場合にどのようなことが起こり得るのかをご紹介します。
遺言書がない場合、相続人全員で話し合うことになります
遺言書がない場合には、まず誰が相続人になるのか、どのような相続財産があるのかを調査します。
そのうえで、相続人が複数いる場合には、原則として相続人全員で、
「誰が、どの財産を、どのように相続するのか」
を話し合います。
これが「遺産分割協議」です。
法定相続分は、遺産を分ける際の基準になりますが、必ず法定相続分どおりに分けなければならないわけではありません。
相続人全員が合意すれば、
「自宅は妻が相続する」
「預貯金は子どもたちが相続する」
など、事情に応じた分け方をすることもできます。
問題になるのは、相続人全員の合意が必要になるという点です。
遺言書がないことで起こり得ること
遺言書がない相続では、たとえば次のようなことが起こる可能性があります。
- 遺産分割の話し合いに時間がかかる
- 相続人の一人と連絡が取れない
- 財産をすぐに処分できない
- 不動産の分け方で意見が合わない
- 介護や生前贈与などをめぐって意見が分かれる
- 本人が財産を残したかった人に財産が渡らない
- 疎遠だった親族との話し合いが必要になる
それぞれについて見ていきましょう。
1.遺産分割の話し合いに時間がかかることがある
遺産分割協議には、相続人全員の参加と合意が必要です。
相続人が妻と子ども2人で、全員の意見が一致していれば比較的スムーズに進むかもしれません。
しかし、相続人の人数が多かったり、遠方に住んでいたり、長期間交流がなかったりすると、連絡を取るだけでも時間がかかることがあります。
また、
「自宅は誰が取得するのか」
「介護をした人と、していない人が同じ相続分でよいのか」
「生前に多額の援助を受けた人がいる」
など、それぞれの事情や考え方によって話し合いがまとまらないこともあります。
2.話し合いがまとまらなければ家庭裁判所での手続きになることも
相続人同士で遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。
調停では、裁判官や調停委員を介して話し合いを進めます。
それでも合意できない場合には、遺産分割審判へ移行し、裁判所が遺産の分け方を判断することになります。
ここまで進むと、解決までに長い時間がかかることがあります。
また、家族にとって精神的な負担が大きくなってしまうこともあります。
3.不動産をどうするか決められないことがある
相続財産の中でも、特に分けにくいのが不動産です。
たとえば、主な相続財産が、
自宅3,000万円
預貯金500万円
だったとします。
相続人が複数いる場合、自宅を誰が相続するのかという問題が出てきます。
自宅を一人が取得して、他の相続人には預貯金を渡す方法もありますが、それだけでは相続分のバランスが取れないこともあります。
その場合、自宅を取得する人が他の相続人へ代償金を支払ったり、不動産を売却して現金で分けたりすることも考えなければなりません。
「この家には妻にずっと住んでもらいたい」
という希望があるのであれば、その希望を遺言書に残しておくことを検討する必要があります。
4.遺産を自由に処分できないことがある
被相続人が亡くなると、相続財産は原則として相続人に承継されます。
しかし、遺産分割が必要な財産については、誰が取得するのかが決まるまで自由に処分できないことがあります。
特に不動産について、
「早く売却したい」
「この家を妻の名義にしたい」
と思っても、相続関係や遺産分割の状況によっては、すぐに希望どおりの手続きを進められないことがあります。
また、預貯金についても、金融機関の相続手続きが必要になります。
現在は、遺産分割前でも一定の範囲で預貯金を払い戻すことができる制度がありますが、自由に全額を引き出せるわけではありません。
5.相続税には申告期限がある
遺産分割の話し合いが終わっていなくても、相続税の申告期限が延びるわけではありません。
相続税の申告・納税が必要な場合、原則として、
被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内
に申告と納税を行う必要があります。
遺産分割がまとまらないまま申告期限を迎えると、税務上の特例を利用するために別途手続きが必要になる場合もあります。
相続は「家族でゆっくり話し合えばよい」と思っていても、実際には期限のある手続きもあります。
6.本人が財産を残したかった人に渡らないことがある
遺言書がない場合、被相続人が生前に、
「この家は妻に残したい」
「介護をしてくれた息子のお嫁さんにも財産を残したい」
「お世話になった人に少し財産を渡したい」
と思っていたとしても、その気持ちだけで財産の承継先が決まるわけではありません。
特に、法定相続人ではない人へ財産を残したい場合には、原則として遺言書などによる準備が必要です。
ご本人の希望を実現したいのであれば、元気なうちに意思を形にしておくことが大切です。
7.疎遠な親族との遺産分割協議が必要になることがある
「家族は妻だけだから、妻が全部相続する」
と思っていたところ、実際に戸籍を調べると別の相続人がいることがあります。
特に注意したいのが、子どものいないご夫婦です。
夫が亡くなり、夫の父母などの直系尊属もすでに亡くなっている場合には、
妻と夫の兄弟姉妹
が相続人になることがあります。
兄弟姉妹が先に亡くなっている場合には、その子である甥・姪が代襲相続人になることもあります。
たとえ何十年も交流がなかったとしても、法律上の相続人であれば、遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
子どものいないご夫婦は特に遺言書を検討してみましょう
子どものいないご夫婦で、
「自分が亡くなったら、財産はすべて妻(夫)に残したい」
と考えているのであれば、遺言書の作成を検討していただきたいケースです。
兄弟姉妹には遺留分がありません。
そのため、父母などの直系尊属がすでに亡くなっていて、兄弟姉妹が相続人となるケースでは、
「全財産を妻(夫)に相続させる」
という遺言書を作成しておくことによって、残された配偶者が兄弟姉妹や甥・姪と遺産分割協議をしなければならない事態を避けられる場合があります。
長年暮らしてきた自宅を配偶者に確実に残したい場合にも、大切な対策になります。
遺言書は「争いを防ぐため」だけのものではありません
遺言書というと、
「うちの家族は仲が悪くないから必要ない」
と思われるかもしれません。
しかし、遺言書を作る目的は、相続争いを防ぐことだけではありません。
残された家族が、できるだけ迷わず手続きを進められるようにしておくこと。
これも遺言書の大切な役割だと思います。
自分が亡くなった後に相続手続きをするのは、自分ではありません。
残された家族です。
だからこそ、
「誰に何を残したいのか」
「自宅をどうしてほしいのか」
「家族にどのような負担がかかる可能性があるのか」
を元気なうちに一度考えてみることには、大きな意味があります。
遺言書が必要かどうか分からない場合もご相談ください
すべての方に遺言書が必要というわけではありません。
ご家族の構成や財産の内容によっては、遺言書を作成しなくても特に問題がない場合もあります。
大切なのは、自分の場合、遺言書がなかったら誰が相続人になり、どのような手続きが必要になるのかを知っておくことです。
ハートフルサポート行政書士事務所では、戸籍から相続関係を確認し、財産やご家族の状況、ご本人のお気持ちをお伺いしながら、遺言書を作成した方がよいケースなのかというところから一緒に整理いたします。
「まだ遺言書を書くと決めていない」
「自分の場合、誰が相続人になるのかだけ知りたい」
そのような段階でも、お気軽にご相談ください。

