法律上の「遺言」とは?録音や動画でも遺言になる?
「私が亡くなったら、この家は長男にあげる」
このような言葉を生前に家族へ伝えていたら、それは法律上の「遺言」になるのでしょうか。
では、その言葉をスマートフォンで録音していたら?
本人が話している様子を動画で撮影していたら?
ご本人の意思がはっきり残っているのだから、遺言として認めてもらえそうな気もします。
しかし、法律上の「遺言」には決められた方式があります。
どれほど本人の意思が明確に残されていたとしても、法律で定められた方式による遺言でなければ、原則として遺言としての法的な効力は認められません。
今回は、法律上の「遺言」とは何なのかについてご説明します。
「遺言」と「最後のメッセージ」は違います
私たちは普段、
「家族への遺言を残しておきたい」
という言い方をすることがあります。
その意味では、
「兄弟仲良く暮らしてください」
「お母さんのことをよろしくお願いします」
「今までありがとう」
という言葉も、大切な「遺言」といえるでしょう。
しかし、法律上の遺言は少し意味が違います。
法律上の遺言とは、民法で定められた方式に従って行われ、遺言者が亡くなった後に一定の法律上の効果を生じさせるものです。
そのため、単なるメッセージと法律上の遺言は分けて考える必要があります。
民法には「遺言の方式」が定められています
民法960条には、
「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」
と定められています。
遺言は、本人が亡くなった後に効力を生じるものです。
そのときには本人に、
「本当にこういう意味だったのですか?」
と確認することができません。
そのため、法律では遺言について厳格な方式が定められています。
録音した音声は法律上の遺言になる?
たとえば、亡くなる前に本人が、
「預金はすべて長女に渡してください」
と話していて、その音声がスマートフォンに録音されていたとします。
本人の声であることが明らかだったとしても、その録音だけで通常の法律上の遺言として財産を承継させることはできません。
「確かに本人が言っているのだから大丈夫」
というものではないのです。
動画に残していても遺言にはならない?
動画についても同様です。
本人がカメラに向かって、
「この自宅は妻に残します」
「○○銀行の預金は長男に渡します」
とはっきり話していたとしても、動画そのものが民法で定められた方式による遺言になるわけではありません。
現在ではスマートフォンで簡単に動画を残すことができますが、
「動画を撮っておけば遺言書の代わりになる」
ということではありませんので注意が必要です。
では、動画や録音を残す意味はない?
法律上の遺言にならないからといって、動画や録音にまったく意味がないわけではありません。
たとえば、正式な遺言書を作成したうえで、
「なぜこのような財産の分け方にしたのか」
「家族にどのような思いを持っているのか」
をご本人の言葉で残すことには意味があるでしょう。
また、遺言書を作成した当時の本人の様子や意思を確認するための資料の一つとなる可能性もあります。
ただし、動画や録音があるからといって、遺言書の有効性が当然に保証されるわけではありません。
正式な遺言書と、家族へのメッセージは別のもの
と考えておくことが大切です。
一般的な遺言には3つの方式があります
民法では、通常利用される「普通方式」の遺言として、主に次の3つが定められています。
自筆証書遺言
遺言者本人が作成する遺言です。
原則として、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印する必要があります。
ただし、財産目録については一定の要件のもと、パソコンで作成したものや通帳のコピーなどを利用することもできます。
公正証書遺言
公証人が遺言者本人の意思を確認し、法律で定められた方式に従って作成する遺言です。
原本が公証役場で保管されるため、紛失や改ざんなどの心配が少ないという特徴があります。
秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にしたまま、その遺言書が本人のものであることを公証人などに確認してもらう方式です。
ただし、実際には自筆証書遺言や公正証書遺言と比べると利用されることの少ない方式です。
このほか、生命の危険が迫っている場合などに利用される「特別方式の遺言」も法律上定められています。
遺言書は何歳から作れる?
遺言については、成人年齢とは別のルールがあります。
民法では、
満15歳に達した人は遺言をすることができる
と定められています。
そのため、18歳になっていなくても、満15歳になれば遺言をすることができます。
ただし、年齢の要件を満たしているだけではなく、遺言をするときに、その内容や結果を理解し判断できる能力が必要です。
これを「遺言能力」といいます。
認知症の場合は遺言できない?
高齢の方の遺言では、
「認知症だったから遺言書は無効なのではないか」
という問題が起こることがあります。
しかし、認知症と診断されていることだけで、当然に遺言ができなくなるわけではありません。
大切なのは、遺言書を作成した時点で、遺言内容やその結果を理解し判断できる能力があったかどうかです。
反対に、遺言書を作成した時点で遺言内容を理解できる状態ではなかった場合には、その遺言の有効性が問題になることがあります。
遺言書で法律上の効力を持たせることができること
法律上の遺言では、財産の承継に関することをはじめ、さまざまな事項を定めることができます。
たとえば、
- 誰にどの財産を相続させるか
- 相続人ではない人へ財産を遺贈する
- 相続分を指定する
- 遺言執行者を指定する
- 子を認知する
- 推定相続人の廃除やその取消し
- 未成年後見人を指定する
などです。
一方で、遺言書に書けばどのような内容でも法律上の強制力が生じるわけではありません。
「兄弟仲良く」は書いてはいけない?
もちろん書いて構いません。
たとえば、
「私が亡くなった後も、兄弟仲良く助け合ってください」
「長男に自宅を残すのは、これまで私たち夫婦と一緒に暮らし、家を守ってくれたからです」
「家族みんなに感謝しています」
という気持ちを遺言書に残すこともできます。
このような部分を一般に「付言事項」といいます。
付言事項には通常、財産を相続させるような法律上の強制力はありません。
しかし、
なぜこのような遺言内容にしたのか
をご家族に伝えるという意味では、大切な役割を持つことがあります。
遺言書には大きな法的効果があります
遺言書は、遺言者が亡くなった後に効力を生じます。
たとえば、
「自宅を長男に相続させる」
という有効な遺言を残せば、それは単なる「お願い」ではありません。
法律上の効果を生じることになります。
だからこそ、
「とりあえず書いておこう」
というものではなく、ご自身の財産や家族関係を整理し、内容をよく考えて作成することが大切です。
一方、遺言は後から見直すこともできます。
家族関係や財産、ご自身のお気持ちが変わったときには、現在の状況に合わせて遺言書を作り直すこともできます。
大切なのは「思い」と「法律上の効力」を分けて考えること
家族への思いを残すことと、財産について法律上の効果を生じさせることは、どちらも大切です。
しかし、この2つは同じものではありません。
たとえば、
「この家は妻に残したい」
という希望があるのであれば、その気持ちを動画で残すだけではなく、法律で定められた方式に従った遺言書として残す必要があります。
そして、
「長い間一緒にいてくれてありがとう」
という思いは、付言事項や手紙、動画などで伝えることができます。
目的に応じて使い分けることが大切です。
大切な意思だからこそ、きちんとした形で残しましょう
遺言書が使われるとき、遺言を書いた本人はもうそこにはいません。
「本当はこういう意味だった」
「この人に渡したかった」
と説明することはできません。
だからこそ、財産についての大切な意思は、法律で定められた方式に従って、できるだけ分かりやすく残しておくことが重要です。
ハートフルサポート行政書士事務所では、ご本人のお気持ちをお伺いしながら、
法律上の効力を持たせる部分と、ご家族へ伝えたい思い
を整理して、遺言書作成のお手伝いをいたします。
「家族には希望を話しているけれど、遺言書は作っていない」
「自分で遺言書を書いてみたけれど、有効なのか心配」
「公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらがよいか分からない」
そのような段階からでも、お気軽にご相談ください。

