母が日本人でも日本国籍ではない?昭和60年以前に生まれた在日韓国人の方と国籍法
現在の日本の国籍法では、子どもが生まれた時に父または母のどちらかが日本人であれば、その子どもは原則として出生により日本国籍を取得します。
そのため、韓国籍の父と日本人の母との間に生まれた子どもも、現在では原則として出生と同時に日本国籍を取得します。
しかし、昭和60年(1985年)1月1日より前に生まれた方については、現在とは異なる国籍法が適用されていました。
その結果、母親が日本人であっても、父親が韓国籍であったために日本国籍を取得しておらず、現在も韓国籍のまま生活している方がいらっしゃいます。
現在は父または母が日本人なら日本国籍を取得します
現在の国籍法第2条第1号では、子どもは、出生時に父または母が日本国民であるとき、日本国民になると定められています。
これは「父母両系血統主義」と呼ばれる考え方です。
父親だけでなく、母親が日本人である場合も、その子どもは原則として出生により日本国籍を取得します。
したがって、現在、次のような父母の間に子どもが生まれた場合、子どもは原則として日本国籍を取得します。
- 父が韓国籍、母が日本人
- 父が日本人、母が韓国籍
ただし、日本国外で生まれ、出生により韓国籍などの外国国籍も取得した場合には、日本国籍を留保するための届出が必要になることがあります。
また、日本人と結婚した韓国籍の配偶者本人が、婚姻によって自動的に日本国籍を取得するわけではありません。
ここで説明しているのは、主に夫婦の間に生まれた子どもの国籍についてです。
昭和60年より前の日本は「父系血統主義」でした
日本の国籍法は、昭和59年法律第45号によって改正され、昭和60年1月1日から現在の父母両系血統主義へ移行しました。
改正前の国籍法は、原則として父親の国籍を基準に日本国籍の取得を判断する「父系血統主義」を採用していました。
そのため、昭和60年1月1日より前に生まれた子どもについては、原則として次のように扱われていました。
| 出生時の父母 | 子どもの日本国籍 |
|---|---|
| 父が日本人・母が韓国籍 | 原則として出生により日本国籍を取得 |
| 父が韓国籍・母が日本人 | 原則として出生による日本国籍を取得しない |
つまり、日本人女性が韓国籍の男性と結婚し、その間に子どもが生まれたとしても、当時の日本法では、その子どもは母親から日本国籍を引き継ぐことができませんでした。
一方、当時の韓国国籍法も、原則として、出生時に父が韓国国民であれば子どもが韓国国籍を取得するという「父系血統主義」を採用していました。
そのため、韓国籍の父と日本人の母との間に生まれた子どもは、通常、父親を通じて韓国国籍を取得し、日本国籍は取得しないという取扱いになっていました。
ただし、父が知れない場合や父が無国籍である場合などには例外がありました。
また、実際の国籍については、出生時の父母の婚姻関係、父子関係、出生届や韓国側の家族関係登録などによって個別に確認する必要があります。
国籍法が改正されたのは昭和59年、施行は昭和60年です
日本の国籍法の改正法が公布されたのは、昭和59年(1984年)5月25日です。
ただし、改正法が実際に施行されたのは、昭和60年(1985年)1月1日でした。
そのため、国籍を確認するときの重要な基準日は、原則として次のようになります。
- 昭和59年12月31日以前に出生した方
原則として改正前の父系血統主義が適用されます。 - 昭和60年1月1日以後に出生した方
父母両系血統主義が適用され、母が日本人であれば原則として出生により日本国籍を取得します。
国会審議においても、当時の法務大臣は、日本が従来「血統主義、しかも父系」を採用していたところ、改正によって父母両系血統主義に変更することを説明しています。
また、その後の国会審議でも、法務省は、昭和59年の国籍法改正によって、日本人である母の子どもは、父が外国人であっても出生により日本国籍を取得することになったと説明しています。
改正前に生まれた人には国籍取得の特例がありました
昭和60年の改正時には、それ以前に日本人の母から生まれた子どもに対する経過措置も設けられました。
具体的には、次の要件に該当する方について、法務大臣への届出によって日本国籍を取得できる特例が設けられました。
- 昭和40年1月1日から昭和59年12月31日までに生まれたこと
- 出生時に母が日本人であったこと
- 母が現在も日本人であるか、死亡時に日本人であったこと
- それまで日本国民であったことがないこと
ただし、この届出ができる期間は、原則として昭和60年1月1日から3年間に限られていました。
また、この制度は、法律の改正によって当然に出生時までさかのぼって日本国籍を与える制度ではありませんでした。期間内に届出をした人が、その届出の時に日本国籍を取得する制度です。
そのため、当時この特例による届出をしていない方は、母親が日本人であったとしても、それだけで現在、日本国籍を取得していることにはなりません。
現在、日本国籍を取得するには帰化申請が必要です
昭和60年1月1日より前に、韓国籍の父と日本人の母との間に生まれ、出生時に日本国籍を取得せず、その後も国籍取得の届出などをしていない方が、現在、日本国籍の取得を希望する場合には、原則として帰化申請が必要になります。
もっとも、母が日本人である方は、一般の外国人とまったく同じ条件で審査されるとは限りません。
国籍法には、日本人の子や日本で生まれた方などについて、一部の帰化条件を緩和する規定があります。一般に「簡易帰化」などと呼ばれていますが、帰化申請そのものが不要になる制度ではありません。
どの条件が緩和されるかは、本人の出生地、現在の住所、母親の国籍、過去に日本国籍を有していたかどうかなどによって異なります。
「日本人の母がいる=日本国籍」とは限りません
国籍は、現在の法律だけで判断することはできません。
特に、昭和60年1月1日より前に生まれた在日韓国人の方については、母親が日本人であっても、出生時の国籍法によって日本国籍を取得していない可能性があります。
確認に当たっては、少なくとも次の事項を整理する必要があります。
- 本人の正確な生年月日
- 出生地
- 出生時の父母の国籍
- 出生時に父母が法律上婚姻していたか
- 日本人である母の戸籍
- 本人が母の戸籍にどのように記載されているか
- 韓国の家族関係登録簿や旧戸籍の記載
- 昭和60年の改正時に国籍取得の届出をしていないか
- 過去に日本国籍を取得又は喪失した事実がないか
母親の戸籍に出生事項が記載されていることと、本人が日本国籍を有していることは、必ずしも同じではありません。
また、在留カードに記載された国籍・地域や、韓国の家族関係登録簿の記載だけで日本国籍の有無を最終判断できない場合もあります。
まとめ
現在は、父または母のどちらかが日本人であれば、その子どもは原則として出生により日本国籍を取得します。
しかし、昭和60年1月1日より前の日本では父系血統主義が採用されていたため、韓国籍の父と日本人の母との間に生まれた子どもは、原則として日本国籍を取得できませんでした。
昭和60年の法改正時には届出による国籍取得の特例が設けられましたが、届出期間はすでに終了しています。
そのため、当時の制度によって日本国籍を取得しておらず、現在、日本国籍の取得を希望する方については、原則として帰化申請を検討することになります。
もっとも、国籍の判断は、生年月日だけで一律に決められるものではありません。
出生時の父母の国籍や婚姻関係、日本と韓国双方の戸籍・家族関係登録、過去の国籍取得届の有無などを確認したうえで、帰化が必要なのか、すでに日本国籍を取得している可能性がないかを慎重に判断することが大切です。
※本記事は一般的な制度をご説明するものです。個別の国籍関係は、出生時に適用された日本及び韓国の法令、父母との法律上の親子関係、過去の届出などによって異なります。

